タイトルと表紙が気に入って買ったコミック。当たりだった。うれしい。思ったとおり、やわらかくて、せつない。こういう関係もありなのかーと思う。すごく新鮮だった。王さまには、彼の本当の気持ちは最期のときしか伝わらなかったのだろうか。彼ほど、王さまのことをよくわかっている人間はいなかったろう。最初は憐憫、それから愛着。だれよりもつよく、妻よりずっとずっと強く、一番大事にされていたのだけど、王さまにとって彼は、たったひとり執着の象徴。彼しかほしくなかったのかもしれない。

王さまになって、ひとりきりではなくなって、自由になれたはずなのに、たったひとつほしいものが手に入らない。本当は、てのひらの上にあったのだけれど、つかんで一瞬も離したくなかったのだろう。無理なことなのに。王さまは彼にそれを望んでしまった。だから、彼は叶えた。自分ができるたったひとつの方法で。

飛び散る血は、今まで見たどんな色よりも鮮やかだったろう。

ちなみに同性愛の話では全然ないので。もっと深くて純粋なところの関係。いっそそういう関係の方が話も早くてふたりともしあわせになれたのかもしれないとも思うけど、これはきっとこういう終わり方でなければ、作者の本当の魅力が伝わらなかったかもしれない。

表題作ほか、彼女の初期の短編がいくつか掲載されている。明るくしあわせな話も勿論あってそれはそれで本当に楽しい。本当は、思い合っているふたりの男女が、おかしな立場で出会って複雑な事情があって、素の顔を見せ合い、通じ合うまでを、まったくの第三者が見つめているのがすごくおもしろかった。ただの恋愛ものではなくて、ただのコメディではない。どこかせつなく、きれいで、やさしい。このひとはそういう話が描けるひとだ。

ISBN:440361826X コミック 吟 鳥子 新書館 2006/02 ¥578

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