このひとの文章は、透き通った水と、それに濡れた緑の葉っぱと、道に転がる石ころと、硝子で出来た綺麗なアクセサリーと、焼きたてのパンと、ふわふわとした夢……そんなもので出来ている。それは小説であってもエッセイであっても変わらなくて、そのことがとても嬉しい。

この本はエッセイである。あるがしかし私小説のような雰囲気もある。現実が現実であって現実でない。不思議な空間で不思議な女性がゆったりと自分のペースで生きているのを垣間見る事が出来る。その擬似体験はこのひとの書いたものでなければ絶対に出来ないと保証する。

書かれる小説ほどに切なくはなく、小説ほどに甘くはなく、小説ほどに現実の匂いがしない、本当の話。このひとの書くものを読む度に私は幻想と現実のあいだを彷徨する。誰にも邪魔されないその時間は、生きていくのにきっと必要なものだと、忙しさに追われる今、痛感する。

ISBN:4043480040 文庫 江國 香織 角川書店 2004/08 ¥500

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