偶然の祝福

2004年12月22日 読書
なんというか、相変わらずこのひとらしい本。退廃的で刹那的なムードが漂い、仮想現実のような曖昧なボーダーラインの上を主人公が行き来しつつ、過去と未来と現在が交錯する…そんな本だ。私はこのひとの本を読むといつも自分が今どこにいて何をしているのかがわからなくなる。のめり込んでいるのかと言われればそういうわけではないのだが、現実を忘れさせる力があるという点ではやはり芥川賞を獲るだけはあるのだなあと思う。

7本の短編から成るこの本は、作家である女主人公の目を通していくつもの時代を切り取っては私たちに垣間見せてくれ、最終的に彼女のいる現実へといざなってくれる。それぞれのエピソードが独立しているせいか、だらけることなく最後まで読むことが出来た。流されて生きているように見えて彼女は多分、抗えない力に沿って彼女なりに何かを選びながらここまで歩いてきたのだろう。輪郭のぼやけている印象があるのに、それでいて彼女の心だけがくっきりと鮮やかに光る瞬間がある。それこそが小川洋子のおりなす世界の真骨頂なのだと思う。


ISBN:4043410050 文庫 小川 洋子 角川書店 2004/01 ¥500

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