夏姫春秋〈上〉

2004年10月20日 読書
この作家の本で初めて読んだのがこの本だった。直木賞受賞作(だった筈)の中国歴史物である。今でこそ宮城谷昌光氏の本は好んで読んでいるが、その当時はあまり好きになれなかったのだ。それは多分、主人公が流されるままに生きる女性だったせいだろう。

夏姫はまさに「傾国の美女」ならぬ「致死の美女」とでも言おうか。彼女を抱いた男はその後まもなく死を迎えることになる。それでいてどの男をもとりこにした夏姫はしかし、彼女自身さしたる意思もなく手管があるわけでもなく、流れのままに次々に男に嫁入りをさせられ、そこでの生活を受け入れているように見えた。彼女が愛したのは最初の男である兄だけだったのだろうか。それを仄めかす文もあったりして、余計に今いちのめりこめなかったような気がする。

しかし彼女の最後の男となる人物のみが、死に近付くことなく彼女を手に入れることに成功する。その彼のもとにたどりつくまで、夏姫の歩んだのは数奇な運命としか言いようのないものだった。それでいて男をひとり経る度に美しさを増す夏姫。彼女はつまり男の野心そのものだったのかもしれない。その器なくして野心手に入れるもの死に至るべし。彼女の不文律があったとすればきっとそんな感じだったのだろう。表舞台にはならぬ歴史の陰を、夏姫という特異なキャラクターを通して彼は伝えたかったのかもしれない。と今にして思う。

ISBN:4163197109 単行本 宮城谷 昌光 文芸春秋 2000/11 ¥1,700

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