私がこの作家の本と出会ったのは、まさにこの文庫が発行されたとき…1991年の秋のことだった。まだ学生だった私は、アルバイトまでの時間を潰しに今はなき某所の大きな本屋へと足を踏み入れていた。そのとき丁度福武書店から「キッチン」も文庫化されており(今は新潮文庫に移動したようだ)、この2種類の本がこれでもかと言わんばかりに山積みになっていたのを思い出す。
彼女を一躍有名にしたこの2冊が、単行本として発行されたときの新聞他あらゆるマスメディアの彼女の持ち上げ方と言ったらなかった。世紀の新人が出てきたとこぞって彼女を褒めたたえ、売上はうなぎのぼりであったように思う。元々天邪鬼なところのある私は、そこまで熱狂的に売れてしまうと反って興味をなくしてしまい、その当時は手に取ろうとも思わなかったことを覚えている。
それが文庫という安価な形体で再び世に出たこと、更に少しばかりは彼女の作品というものに興味を持っていたらしい自分の気持ち、更にその日、私はどうしても新しい本が読みたかった。外れてもいいやという軽い気持ちでその2冊を手に取り、レジに向かったのである。
そして今はどうだろう。2冊のうち、特にこの「哀しい予感」という本は見る影もない程にぼろぼろになった。自分的バイブルに近いものがあると思う。バイブルと決めつけるには、まだ他にも心を揺さぶる秀作があるので少し考慮がいるところではある。でも、既に10年以上の月日が流れても未だに読めば惹き込まれてしまう本との出会いは、本当に滅多にないことで、その偶発的な出会いはいつどこに転がっているのかわからないものだと思う。
ストーリーについては今更語るべきこともないだろう。表紙を飾るゆきのという女性は、女の心のどこかにある逃避の憧れを具現しているように思えて仕方がない。呪いのようにしみついてしまったという特異な家族とその生活。記憶にはないとは言え、確かにそこで育ったもうひとりのこどもの未来は、実直で素直な弟が握っているのだ。
それに気付き始めた彼女の予感が、少しでも幸せに繋がることを祈ってやまない。
ISBN:4041800013 文庫 吉本 ばなな 角川書店 1991/09 ¥399
彼女を一躍有名にしたこの2冊が、単行本として発行されたときの新聞他あらゆるマスメディアの彼女の持ち上げ方と言ったらなかった。世紀の新人が出てきたとこぞって彼女を褒めたたえ、売上はうなぎのぼりであったように思う。元々天邪鬼なところのある私は、そこまで熱狂的に売れてしまうと反って興味をなくしてしまい、その当時は手に取ろうとも思わなかったことを覚えている。
それが文庫という安価な形体で再び世に出たこと、更に少しばかりは彼女の作品というものに興味を持っていたらしい自分の気持ち、更にその日、私はどうしても新しい本が読みたかった。外れてもいいやという軽い気持ちでその2冊を手に取り、レジに向かったのである。
そして今はどうだろう。2冊のうち、特にこの「哀しい予感」という本は見る影もない程にぼろぼろになった。自分的バイブルに近いものがあると思う。バイブルと決めつけるには、まだ他にも心を揺さぶる秀作があるので少し考慮がいるところではある。でも、既に10年以上の月日が流れても未だに読めば惹き込まれてしまう本との出会いは、本当に滅多にないことで、その偶発的な出会いはいつどこに転がっているのかわからないものだと思う。
ストーリーについては今更語るべきこともないだろう。表紙を飾るゆきのという女性は、女の心のどこかにある逃避の憧れを具現しているように思えて仕方がない。呪いのようにしみついてしまったという特異な家族とその生活。記憶にはないとは言え、確かにそこで育ったもうひとりのこどもの未来は、実直で素直な弟が握っているのだ。
それに気付き始めた彼女の予感が、少しでも幸せに繋がることを祈ってやまない。
ISBN:4041800013 文庫 吉本 ばなな 角川書店 1991/09 ¥399
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