同名の映画を小説化した作品。残念ながら映画の方は未だ観ていないのだが、友人がひどく気に入っているので時間が取れたら是非観てみたい。この作品は重く難解なテーマを扱っている割に、年齢層の低い人間でも比較的読みやすく書かれている。それは言葉の使い方や表現方法などではなく、若者に魅力的で入りやすい舞台設定にある。

作者の押井守氏と言えば今年、「イノセンス」で再びその名が世間で話題になった人物である。この作品は映画館で観たのだが、原作を殺さずにより深みのある作品に仕上げているところはさすがだと思った。

そしてこのアヴァロン。パソコンやPSなどのゲームが全盛期を迎えている現代だからこそ、この作品の悲哀と恐怖がダイレクトに伝わってくる。ヴァーチャルと現実との境目はどこにあるのか。精神そのものをゲームの中へと飛ばす、非合法のネットワーク体感ゲーム「アヴァロン」。電脳世界で若者たちは刹那的な戦いの中にその身を当じ、生きるか死ぬかの瀬戸際にある快楽に魅惑されてゆく。

仮想現実は本物の現実に疲れたひとの心に何よりの誘惑となる。それに引き摺られるままに堕ちてゆけば、現実の自分が味わうのは「廃人」という悲劇だ。だが飛ばされた精神はそれを恐れることはない。むしろ味わったことのない自由に喜びを感じ、現実に置き去りにした恋人の到来を待ち望むのである。

だが、ひとにとって都合のよい世界など、存在するはずもない。「アヴァロン」には恐ろしい秘密があった。

裏切りと失望の中で、彼は電脳世界に何を見つけるのだろう。生きることはたやすくはないのだと、苦い笑みを浮かべながら今日も殺戮のバトルゲームに未来を探す。その答えは誰も持たないというのに。


ISBN:4840107424 文庫 押井 守 メディアファクトリー 2003/03 ¥609

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