初の前後編。それだけに話がかなり重めだった。主題はフェリックスの心の傷である。子供にとっての母親の存在の大きさをしみじみと知る1冊でもあった。性格に難ありを除けば、容姿端麗、頭脳明晰、冷静沈着なフェリックスがどうしても幸せになれない根本的原因が、彼の母親にある。幼馴染でもあるコラリーだけが、彼の深淵の痛みまでその声を届かせることが出来るのだ。今回もやはり奈落の底から彼を救ったのは彼女だった。躊躇いなく己に向かい、引鉄を引いた彼女は格好よかったと思う。彼女の枯れることない本物の愛情をそこに垣間見た気がした。

今回は全面的にシュシナックが協力に回っている。なんだかんだ言いつつあの怪盗ほど紳士な男もいないだろう。むしろ見ていて可哀想になってくるくらいだ。途中、我慢が限界を超える場面もあったが、それでも最後には引いてしまう彼は実際、かなり甘い。結局あのふたりともを気に入っているのだろう。シュシナックが一番人間くさい話でもあったように思う。フェリックスの出番が少ない分、彼の優しさが光っていた。

何はともあれ、ようやく幸せになれそうなフェリックスに安堵する。しかし次回作のタイトルが気になるところだ…「盗まれた蜜月」って。いい加減幸せにしてやって…。

ISBN:4086001195 文庫 橘香 いくの 集英社 2002/06 ¥500

コメント

お気に入り日記の更新

日記内を検索